助けて、溺れてしまいそうなんだ。




悲惨。
その単語が最初に頭に浮かぶ、そんな風景だった。
赤の中に自分の身体よりも巨大な刀のような、剣のような刃物を片手に少年が立ち尽くす。私の姿を見つけると、彼は泣きそうな顔になる。いつもそうだ。
「なんで、なんでかな。」
まるで壊れたように呟く。私がいるのに誰もいないように。声に出して自分に言い聞かせるように。
「ぼくがやりたかったのはこんなことだったかな。だれかのためになりたかっただけなのに。みんながしあわせになれるはずなのに。しょうきんくびをつかまえることだったかな。ひとをしなせることじゃあなかったよね。みんなをまもるためにつよくなったのに、なんでひとがしぬの。」
少年は足下の肉塊を蹴り飛ばした。首から上だけは、傷一つ付かないで転がっている。
「おい、」
「だれもぼくがこんなことしてるってしらないんだ。ぼくがこんなことしたってせかいはかわらないんだよね。そらはあおいしさ。ちはあかいんだよ。おねいさんだって、本当はぼくなんていやなんでしょ。はやくこんな、拾い物なんて」
「おい、いい加減にしておけ。」
「……、ねぇ、なんでこんなにかなしいのに、ぼくはなけないのかな。」
「泣けなくとも、お前はお前だ。」
少年に向かって歩み寄る。先ずはこの血塗れの服をどうにかしなくては。また新しい服でも買ってやろうかな、と思考する。
手を繋ぐ。抱き締めてやりでもすれば喜ぶのだろうか。私にはよく解らない。だから、手を繋いだ。
「おねいさんは、」
「ん、なんだ。」
ぼくをすてないんだね、と嗄れた声で言う。それに私は、当たり前だと答えた。



071227