髪を弄るのが癖になりやがった。切っ掛けはよくわからない。ここ何ヵ月か髪を切っていないせいだろうか。 世間では、髪をしょっちゅう弄る奴は欲求不満だと言うらしい。というか、その理屈だと美容師とか言う職業は欲求不満者の集まりだぞ? ついでに言っておくと、俺は断じて全然神に誓って(まぁ、宗教なんてしんじてないが)欲求不満などではない。 この間悔しいことに低脳民族ドラッケンギギナに指摘されて初めて気がついた。どうでも良いことばっかり見てやがるから困ったものだ。 そんな暇があるなら自分の頭の中に脳味噌が残っているのかを確認すべきだと思う。うん、そうだ、そうすべきだ。 そこまで考えてふと、あの銀色の髪に触れてみたいという衝動に駆られた。そんなこといったら鼻で笑われるだろう。 それにギギナは今、事務所にいない。


俺はギギナに向かって手を伸ばしていた。だけど、掠りはすれど掴めない。掴めても、擦り抜ける。なぁ、お前には何処まで行けば追いつけるの?


「……ろ、ガユスよ」
「…………ぇ?」
「起きろと言っているのだ、眼鏡置き。」
がばぁっと身体を起こすと夕日が窓から差し込んでいた。えと、いつの間に寝たんだっけ?
「お前、いつ帰って来た?」
「貴様が悠々と寝ている間に、だ。」
不機嫌の具合からみるとずいぶん長い間寝ていたらしい。だけど、これは寝てたというよりも……。
そういえば、
「なぁギギナ、」
声をかけたら想像どおりの顔で振り向かれた。気にしないで続ける。
「あのさぁ、」
髪弄らせてよ、と続けようとして、
止めた。
なんだか自分がすっごく滑稽に思えた。
「やっぱりなんでも、ない」
「貴様、とうとう口まで故障したか。」
「脳味噌が筋肉のギギナに心配される日が来るなんて、思ってもみなかったな。嬉しすぎて涙が止まらないね」
「ガユス、」
「なんだよ、戦闘民族ドラッケン。俺のあまりにも素敵な褒め言葉に言葉も出ないのか?だったら、」
負惜しみの言葉の途中、唐突に唇を塞がれた。それはほんの一瞬。
「っ、お前はいきなり」
「何かあったのか」
そんな顔するなよ。思わず目を逸らしてしまう。
「いきなりなんだよ、別に何もない」
何もないよ、お前が心配するようなことは何も。お前は何も気にしなくていいんだ。
「また髪を弄るんだな」
慌てて手を引っ込める。無意識ってやつは恐ろしいな。
ギュっとギギナが抱き付いてくる。力強く強固な腕は、しかし容易に振りほどけた。
「ごめん、ギギナ。今は……駄目だ。」
お前に依存したら俺はすぐに駄目になるよ。分かってるだろう?馴れ合いなんて甘い言葉じゃあなくて、本当に駄目になる。それくらいには自分のことを把握している。

だけど、せめて


080414